2021.5.21

しし接骨院・ししフィット

田中 智衣

捻挫に対する考察

 

◇目的

基本にもどり捻挫について知識を深める。

 

◇結果・内容

捻挫とは

 捻挫は、「骨と骨の間に起こる急激なねじれ、

あるいは激しい外力による関節周辺の関節包や靭帯の損傷をいう」と定義されている。

最近では、関節軟骨の損傷、関節部を通過する筋・腱の損傷など

関節構成組織あるいは関節周辺を通過する組織のうちどの組織が

どの程度損傷されているのか、「捻挫」という用語としての捉え方ではなく

「組織損傷」として捉え対処する。(※1)

 

関節の構造

 関節の構造は大きく線維性の連結、軟骨性の連結、滑膜性の連結がある。

・線維性の連結は骨と骨が線維性の結合組織によって結合され、

頭蓋骨間の結合をする縫合、歯根と歯槽との結合をする釘植、

脛腓靭帯結合や黄色靭帯による椎弓間の連結をする靭帯結合がある。

 

・軟骨性の連結は骨と骨が軟骨組織によって結合され、

両骨が硝子軟骨によって結合される軟骨結合、

両骨が線維軟骨によって結合される線維軟骨結合がある。

 

・滑膜性の連結は一般に関節と呼ばれるもので関節頭と関節窩からなり、

連結部周囲を関節包に包まれ両骨間の間隙を関節腔が構成される。

関節頭と関節窩の表面は関節軟骨で覆われる。

関節窩の深さを補うため、また両関節面の適合を完全にするために

線維軟骨性の関節唇や関節円板、関節半月を認めることがある。(※2)

関節構成組織

 関節を構成する組織として、軟骨組織、関節包、滑液、

靭帯、関節円板または関節半月、滑液包、関節唇、関節の血管、神経がある。

 

靭帯は、関節腔外の関節包外靭帯と関節腔内にある関節包内靭帯が存在する。

多くの膠原線維とわずかな線維芽細胞により構成され、

膠原線維のほとんどがⅠ型コラーゲンである。

靭帯は関節包と結合し、一体化するものや関節包と靭帯の間に

疎性結合組織が介在し分離できるものがある。

また、紐状のものと膜状のものがあり、厚さや幅は関節により様々である。

靭帯から骨に連続する付着部の構造をエンテーシスといい、

靭帯実質部から非石灰化線維軟骨部、

石灰化線維軟骨部となり骨基質部となる4層構造をとる。(※3)

 

関節構成組織損傷

 関節部の損傷は「捻挫」か「脱臼」に分かれる。

今回は捻挫について絞ってみていく。

その中でも関節損傷で最も頻度が高い靭帯の損傷について詳しくみる。

靭帯損傷の分類として、O’Donoghue分類とLeadbetterのより

臨床的な要素を加えた分類がある。

 

【O’Donoghue分類】

靭帯損傷の程度に応じて1~3度に分類される。

第1度:靭帯の一部断裂、関節包は温存されている。

第2度:靭帯の部分断裂、関節包も損傷されている。

第3度:靭帯の完全断裂であり関節包断裂を伴う。

【Leadbetterの分類】

臨床的な内容が加わり、Grade1~3に分類される。

Grade1:

靭帯の微小損傷であり、関節包は温存されている。

疼痛、出血、腫脹、圧痛、機能障害の程度は軽く、

関節不安定性は見られない。

Grade2:

靭帯の部分断裂であり、関節包も損傷される。

疼痛、出血、腫脹、圧痛、機能障害が認められ、

関節不安定性が軽度から中程度に見られる。

Grade3:

靭帯の完全断裂であり、関節包断裂を伴う。

疼痛、出血、腫脹、圧痛、機能障害は著明であり、

関節不安定性も著明に見られる。

 

肩鎖関節等の関節の安定性を保つ働きをする靭帯は

完全断裂した場合脱臼を発生することがあり、

靭帯の中でも関節包と結合し一体化するものは、

靭帯損傷と同時に関節包の損傷を伴うことがあるので注意しなければばらない。

また、幼少期には靭帯の単独損傷よりも靭帯の骨付着部での骨折が発生することが多い。

成人になると関節を捻った際に靭帯損傷となることも多くなる。(※4)

◇治癒機序

 靭帯損傷の治癒機序も炎症期、増殖期、リモデリング期での反応をみていく。

・炎症期では、靭帯の断裂により周囲の毛細血管からの出血があり断端部は

血腫で満たされ、出血と浮腫で疼痛がみられる。

その後、周囲の組織から炎症性細胞が増殖する。

 

血腫が血餅となり肉芽組織に転換するこの時期に周囲の細胞から

様々なサイトカイン(PDGF,TGF-β,FGF,IGFなど)が放出され、

修復促進要員として治癒過程に貢献している。

 

・増殖期は、線維芽細胞から放出されるコラーゲン線維が肉芽組織内を遊走し、

断端部は新生したコラーゲン組織で埋められる。

そして、肉芽組織は元の靭帯線維と連続したコラーゲン線維に置換していく。

線維芽細胞と炎症性細胞が徐々に減少していき、

コラーゲン線維は太さと強度を増して線維束として成長していく。

 

・リモデリング期でコラーゲン線維は再配列を繰り返し、

負荷に対して対応できるようになっていく。

この張力方向に線維が配列していく変化が損傷後から6週間ほどで著明となるため、

適関節に適応したコラーゲン線維に配列を促すためにも適度な

関節運動などの負荷刺激をかけ始める時期となる。(※5)

◇考察

捻挫、関節組織損傷として靭帯の損傷についてピックアップし調べたが、

靭帯のみの損傷と過程してもリモデリング期まで

6週間ほどの治癒期間(安静期間)を考える。

他の組織を同時に損傷している場合やそこを通る筋や腱の損傷も

合併している場合を考えると、損傷部の関節構成や損傷度合いにもよるが、

最低でも2か月〜3か月は治療期間としてみないといけないと考える。

単なる「ぎっくり腰」や「寝違えた」など痛みを甘く見るのではなく、

繰り返す痛みほどしっかりと治療してくべきだと考える。

 

◇課題

損傷頻度の多く見られる靭帯の損傷を詳しくし調べたが、

靭帯だけでなく関節を構成する他の組織の損傷や

治癒過程も考慮しなくてはならない。

 

◇参考・引用

1.柔道整復学・理論編 改訂第5版

※1 P50,51

※2 P46

2.実践柔道整復学シリーズ 柔道整復学総論 塩川光一郎・宇井肇・松下隆【監修】 川崎一郎・塩川光一郎【共編】

※3 P147

※4 P148,149

※5 P149,150

 

 

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